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大阪高等裁判所 平成6年(ネ)1435号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  当事者の申立

一  控訴人

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人は、控訴人らそれぞれに対し、原判決添付物件目録(一)記載二ないし四の各土地について平成二年五月七日遺留分減殺を原因とする持分七億一九〇三万〇二五〇分の五二八七万一一八七の所有権一部移転登記手続をせよ。

3 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二  事案の概要

事案の概要は、次のとおり加除訂正するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決二枚目表二行目の「なお、」から同三行目末尾までを削る。

二  原判決二枚目表九行目の「前者は」から同一〇行目の「七日に、」までを削り、二枚目裏二行目の「昭和五五年一一月」を「昭和五五年法律第五一号による」と改める。

三  原判決二枚目裏一一行目の「贈与した」の次に「(以下、この贈与を「本件贈与」という。)」を加え、三枚目表九行目から一〇行目にかけての「亡松太郎から被告に対する物件目録(一)一、四記載の各土地の贈与」を「本件贈与」と、五枚目表四行目の「物件目録(一)二ないし四の各土地」を「本件各土地」とそれぞれ改める。

四  原判決五枚目表六行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。

「(七) 遺留分減殺請求権の消滅時効の主張に対する反論

民法一〇四二条にいう「減殺すべき贈与があったことを知った時」とは贈与の事実及びそれが減殺できるものであることを知った時であるところ、控訴人らは、遺産分割の調停申立て当時は、遺産目録記載の財産のほか、原判決添付物件目録(二)記載の不動産も亡松太郎の遺産と信じていた。したがって、控訴人らは、本件贈与も存在しないものと信じていたが、本件贈与は、それが存在したとしても、控訴人らの遺留分を侵害するものではないから、遺産分割の際に特別受益として考慮されることによって経済的には遺産であることと同じ遺産分割の結果が得られると考えて、本件贈与を問題としなかったにすぎない。原判決添付物件目録(二)記載の不動産が亡松太郎の遺産であり、本件贈与の事実がないと信じて訴訟上抗争したことには、事実上も、法律上も根拠があるものであったから、控訴人らが、本件贈与の事実及びそれが減殺できるものであることを知ったのは、原判決添付物件目録(二)記載の各不動産が亡松太郎の遺産であることを否定し、本件贈与の事実を認定した判決が確定した平成元年一一月一六日である。」

五  原判決五枚目表八行目冒頭から一〇行目末尾までを削り、同一一行目冒頭の「(二)」を「(一)」と改め、同行目の「各土地の」を削り、同裏一行目冒頭の「(三)」を「(二)」と、同二行目の「行使したという」から四行目の「内容も」までを「遺留分減殺の意思表示をしたと主張するが、同日提出した準備書面に」とそれぞれ改める。

六  原判決五枚目裏九行目冒頭の「(四)」を「(三)」と改め、六枚目表一行目の「六月一七日」の次に「又は右調停の申立てをした同年一一月一〇日」を加え、同三行目冒頭の「原告」の次に「ら」を、同行目から四行目にかけての「特に、」の次に「大阪地方裁判所堺支部」を、同五行目の「出頭して」の次に「本件贈与の事実を」を、それぞれ加え、同行目の「の時点」を「、又は、被控訴人及び一夫が大阪地方裁判所堺支部昭和六三年(ワ)第二六〇号土地建物共有持分権移転登記請求事件において本件贈与の事実及び原判決添付物件目録(二)記載五ないし七の不動産が亡松太郎の遺産であることを争う答弁書を提出した昭和六三年四月二五日」と改める。

七  原判決六枚目表一〇行の冒頭から末尾までを削り、同一一行目冒頭の「2」を「1」と、同末行冒頭の「3」を「2」と、六枚目裏二行目冒頭の「4」を「3」とそれぞれ改める。

第三  証拠《略》

第四  争点についての判断

一  争点3について

1 次のとおり、加除訂正するほか、原判決八枚目表一行目冒頭から九枚目表一〇行目までのとおりであるから、これを引用する。

(一) 原判決八枚目表二行目の「に対し」を「相手方として」、同三行目から四行目にかけての「一ないし三は松太郎が所有し」を「一ないし三記載の財産は亡松太郎の名義であって、その遺産であることに争いはなかった。また」と改め、同四行目の「登記簿上」の次に「、昭和三八年一二月七日に」を加え、同八行目から九行目にかけての「なっていたが、」を「なっていた。なお、同目録(二)記載一の土地については昭和三七年五月四日売買を原因としてマツに所有権移転登記が、同記載二の建物は昭和三八年六月一日建築としてマツの所有権登記が、同記載三の土地については昭和三九年二月二八日売買を原因としてマツに所有権移転登記が、同記載四の土地(の従前地)については昭和二四年三月七日売買を原因としてマツに、同記載五の土地(の従前地)について昭和三〇年一二月の売買を原因として一郎に所有権移転登記が、同六記載の建物については昭和三四年一月一〇日建築、昭和四一年八月四日増築として一郎の所有権保存登記が、同七記載の建物については昭和五二年四月一三日建築として被控訴人及び一郎の持分各二分の一とする所有権保存登記がそれぞれ経由されていた)。」と改め、同一〇行目の「そして」から同一二行目末尾までを「そして、右申立ての際には、原判決添付物件目録(二)記載一、二、五及び六の不動産は亡松太郎の遺産であると主張したが、原判決添付物件目録(一)、(二)記載のその余の不動産については登記簿上の所有名義人の所有であるとし、とりわけ、原判決添付物件目録(一)記載一の土地については、被控訴人が亡松太郎から昭和三八年一二月一〇日に贈与されたものであるから、その価額は特別受益である旨を主張した。なお、控訴人らは、原判決添付遺産目録記載三の預金については預金の存在のみを知っており、預金額は知らなかった。また、遺産分割に当たって亡松太郎の遺産又は共同相続人のいわゆる特別受益財産に当たるかどうかが問題となり得る財産は他にはなかった」と改め、原判決添付物件目録(二)の五行目末尾の次に改行の上、「付属建物 物置 木造陸屋根平家建 床面積三・八〇平方メートル」を加える。

(二) 原判決八枚目表末行の「マツに対し」を「マツを被告として」と、八枚目裏一行目の「真実は亡松太郎が所有していたもの」を「亡松太郎が購入又は建築したもので同人の遺産」と、同四行目の「請求して当庁に」を「請求する」とそれぞれ改め、同五行目「昭和五七年」の前に「大阪地方裁判所堺支部」を加え、同六行目の「昭和六〇年」から同九行目の確定した」までを「、右各不動産が亡松太郎の遺産であるとは認められず、控訴人ら敗訴の判決が昭和六一年八月ころ確定した。」と改める。

(三) 原判決八枚目裏一〇行目の「一夫に対し」を「一夫を被告として」と改め、同一一行目の「又は無効」を削り、原判決九枚目表一行目の「いずれに対しても」を「各不動産(ただし物件目録(一)記載一の土地については分筆後の九番一土地)について」と、同二行目の「請求して当庁に」を「請求する」とそれぞれ改め、同三行目「昭和六三年」の前に「大阪地方裁判所堺支部」を加え、同四行目の「平成元年一一月二日」から同五行目の「判決がなされ、」までを、「被控訴人及び一夫は、同年四月二五日、答弁書を提出して本件贈与の事実を主張し、原判決添付物件目録(二)記載五ないし七の不動産が亡松太郎の遺産であることを争ったところ(控訴人らはそのころ右答弁書の内容を了知した。)、大阪地方裁判所堺支部は、平成元年一一月二日、本件贈与が認定でき、また、原判決添付物件目録(二)記載五ないし七の不動産については亡松太郎が所有権を取得した事実が認められないとして控訴人らの請求を棄却する判決を言い渡し、」と改め、同五行目の「控訴のないまま」の次に「同月一六日ころ」を、同一〇行目の「乙五、」の次に「乙一八、」をそれぞれ加える。

2(一) 民法一〇四二条にいう「減殺すべき贈与があったことを知った時」とは、贈与の事実及びこれが減殺できるものであることを知った時をいう(最高裁昭和五四年(オ)第九〇七号同五七年一一月一二日第二小法廷判決・民集三六巻一一号二一九三頁参照)のであるが、予備的にでも遺留分減殺請求権を行使することは通常は容易であること及び民法一〇四二条が短期の消滅時効を規定して法律関係の早期安定を図った趣旨に照らすと、ここでいう「知った」とは的確に知ったことまでも要するものではなく、遺留分権利者が遺留分減殺請求権を行使することを期待することが無理でない程度の認識を持つことを意味するものと解すべきである。

(二) 控訴人らは、前記認定のとおり、昭和五五年一一月一〇日に遺産分割調停の申立てをする時までに、本件贈与の外形が存することを知っており、右申立ての際には、原判決添付物件目録(一)記載一の土地については被控訴人が亡松太郎から贈与されたことを認め、同記載四の土地は被控訴人の所有であることを認めていたこと、その後、昭和六三年に第二訴訟を提起するまでの間本件贈与の事実を争った形跡がないこと、第二訴訟において、九番一土地及び原判決添付物件目録(一)記載四の土地について、亡松太郎の遺産であるとして共有持分権移転登記手続を求めたのに対し、被控訴人は答弁書において本件贈与を主張したことに照らすと、控訴人らは、第二訴訟における被控訴人の主張を知った時(答弁書が提出され、控訴人らがその内容を了知した昭和六三年四月二五日ころ)には、前記(一)の意味において本件贈与の事実を知ったものと認めることができる。

(三) また、控訴人らは、前認定のとおり、昭和五五年一一月一〇日には、原判決添付遺産目録記載の亡松太郎名義の財産の存在及び内容(預金額を除く)、本件贈与の外形の存在を知っていたし、原判決添付遺産目録記載三の預金についても、遺産分割の調停手続等を通じて、遅くとも第二訴訟の訴えを提起するころまでには、その預金額を知っていた。

ところで、鑑定の結果によると、昭和五五年六月一七日(亡松太郎についての相続開始時)の時点において、本件贈与の対象となった土地の価額は一億九〇四二万二〇〇〇円であり、原判決添付遺産目録記載一の土地の価額は五三七七万九〇〇〇円、同記載二の土地の持分の価額は二四二万七一六六円であることが認められ、争いのない遺産の総額は七五〇〇万六一六六円であったところ、市内に生まれ育ち、遺産分割の調停申立て弁護士に委任していた控訴人らにとっては、本件贈与の対象となった土地と争いのない遺産である土地の位置、地目、面積等の差から、本件贈与の対象となった土地の価額が、争いのない遺産の価額に比べて著しく多額であることを容易に知ることができ、他に遺産がない場合には、本件贈与によって控訴人らの遺留分が侵害されている蓋然性があることを知り得たと解することができる。そうすると、昭和六一年八月ころには、原判決添付物件目録(二)記載一ないし四の不動産が亡松太郎の所有ではなかったことが確定していたのであるから、控訴人らは、第二訴訟を提起した時には、同記載五ないし七の不動産が亡松太郎の遺産でない場合には、本件贈与によって控訴人らの遺留分が侵害されている蓋然性があることを知り得たというべきところ、控訴人らは、第二訴訟において、同記載五ないし七の不動産が一郎の所有ではなく、亡松太郎の遺産である旨主張するについてしかるべき根拠を有していたことを認めるに足りる証拠はなく、控訴人らが第二訴訟を提起、追行していたことを考慮しても、この訴訟で被控訴人及び一夫が右不動産が亡松太郎の所有であることを争うことを知った時(昭和六三年四月二五日ころ)には、前記(一)の意味において本件贈与が減殺し得べきものであったことを知ったと認めることができる。

二  そうすると、控訴人らが平成二年五月七日に本件贈与につき遺留分減殺の意思表示を行ったとしても、その意思表示は、減殺すべき贈与があったことを知った時から一年を経過し、遺留分減殺請求権が時効により消滅した後にされたものである(なお、被控訴人が本訴において消滅時効を援用していることは記録上明らかである。)から、その意思表示は効力を生じない。

第五  結論

以上の次第で、控訴人らの本訴請求は、その余の争点について判断するまでもなく失当であるから、これを棄却した原判決は相当である。よって、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山中紀行 裁判官 武田多喜子 裁判官 水上 敏)

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